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第28回プログラムマネジメント(前編)

プログラムとは

プログラムマネジメントにおけるプログラムの定義はいくつかあるが、プログラムマネジメントの概念としてグローバルにおいても特に評価の高いP2M(Program and Project Management)ガイドブックでの定義が現代のビジネスにおいては最もフィットしていると思える。 
P2Mの特徴は、プロジェクトとプログラムを最初から一体と考えた概念を作り出し、プログラムを企業のイノベーションの実現のための価値創造活動と定義した点が斬新であり、その点が世界でも高い評価を受けている。


具体的な身近な活動であるプロジェクトを起点にプログラムを見ると、プログラムは存在する複数のプロジェクトを束ねてシナジーを作り出す活動としての位置付けまでしか広がりを持たない。しかし、プログラムを価値創造事業という戦略実現の手段として定義すると、プロジェクトの存在そのものの意味さえも考えざるを得なくなり、価値創造の文脈の中で戦略とプロジェクトのあるべき関係性の在り方を考えるまでに広がりを見せる。それは、企業における価値創造の在り方の新しい形を示すものでもあり、これまでの"戦略は組織で実現する"というパラダイムから"戦略をプロジェクトで実現する"という新しいパラダイムのシフトまでも訴求する大きな課題を投げかけることになる。

参考までにP2Mにおけるプログラムの定義を以下に示す。
「プログラムは、プログラムミッションを実現するために複数のプロジェクトが有機的に結合された事業である。 プログラムは価値創造を使命とする活動であり、単に複雑あるいは巨大なシステムを建設あるいは開発することにとどまるのではなく、こうしたシステムの利用・運用という定常的な業務遂行の過程で実現される価値までを含めたトータルな価値を視野に入れたマネジメントが必要である。すなわち、プログラムには複数のプロジェクトが必ず含まれるが、そのほかに従来のプロジェクトマネジメントからは、プロジェクトではなく定常業務とみなされるタイプの業務も含む場合もある。」

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オペレーションプログラムと戦略プログラム

プログラムは大別すると、2つのプログラムに分けることができる。
一つはオペレーション型のプログラムであり、大枠でやることは明確に決まっており大半の場合、関係者は類似のプログラム実践経験を有しており、最初から関係者の共通的な理解が得やすいプログラムである。ただ、活動が大規模であったり、複雑であったり、途中で様々な要因で方向性の修正が必要になる傾向が強かったりするため、全体の活動をプログラムとしてとらえ、その中で複数のプロジェクトを切り出し、プロジェクト間を調整しながらプログラム目的を達成するような活動をとる。
 もう一つは戦略型プログラムであり、創出型あるいは変革型と言われるように、多くの場合関係者は類似の実践経験を持たず、試行錯誤的にスタートする。プログラムは戦略の実行手段として存在するが、初期の段階ではどのようにすれば成功するかが見えていない場合がほとんどで、戦略を実現するためのオプションは無数にあり、その選択の良し悪しによって成果は大きく違ってくる。不確実性は極めて高く、プログラムの実行段階でプロジェクトが切り出された状況においても、プログラムの内外部環境の変化に応じてプロジェクトは変化への対応を求められる。

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プログラムにおけるプロジェクトモデル

P2Mにおいては、プログラムにおいて次の3つの異なるプロジェクトのモデルを定義しており、プログラムの構造を理解するにおいて非常に役に立つ。


・スキームモデル・プロジェクト
プログラムの全体像を明らかにするためのプロジェクトであり、このプロジェクトによってプログラム価値の創出を検証する。


・システムモデル・プロジェクト
具体的な実行段階のプロジェクトであり、このプロジェクトによって提供するものが形作られる。従来のプロジェクトマネジメントの対象となっているプロジェクト領域である。


・サービスモデル・プロジェクト
構築されたモノやサービスを利用・運用という定常的な活動によって顧客に価値を提供するプロジェクトであり、従来であればオペレーションとして定義されていた定常活動もこの分類に入る。

上記のモデル定義はプログラムを定義するには非常に有効なモデルであり、プログラムにはどのような活動が必要かを示唆しており、このモデルはプラント建設、システム構築、新規事業開発、製品開発、業務変革などのあらゆるプログラム活動に当てはまり、プログラムで何をすべきかを示してくれる。また、これらのモデルプロジェクトはそれぞれに一つとは限らず、複数存在するケースもあり、さらにはこれらのモデルプロジェクトが価値創造事業において何度もサイクルとして循環することもあることを付け加えておく。

プロジェクトアプローチとプログラムアプローチ

プロジェクトとプログラムでは、そのアプローチにおいても違いが出てくる。
プロジェクトは目標をもった具体的な活動であり、成果を出すために必要なやるべきことがある程度わかっていることが多い。そのため、プロジェクトアプローチにおいてはやるべきことをできるだけ明確に定義し、実施において無駄がないような進め方が求められる。
一方で、プログラムアプローチにおいては、やるべきことをやれば成果が出せるという保証はなく、外部環境や内部環境の変化によって成果をだすためにやるべきことさえも変えていくことを求められる。例えば、製品開発において当初の目標とした仕様が他社の競合性製品の仕様より劣ることが明白になれば、その仕様さえも再度定義しなおし競争力のある仕様に変化させていかなくてはならない。プログラムアプローチにおいて重要なことは、このままで予想通りの成果(価値の獲得)が達成できるかという一点だけであり、もし出せそうにないのであれば、仕様を変えるか、やるべきプロジェクトを変えるか、プログラム全体を中止してしまい大きな損失が出ないようにするなど適切かつ柔軟な判断が求められる。
このようにプログラムアプローチは不確定要素の大きい事業に対しては柔軟性を持った有効なアプローチとなり、プロジェクトアプローチよりも成果を出す可能性が高くなる。このようなプログラムアプローチは、大規模プロジェクトのような複雑性の高い活動や不確実性の高いプロジェクトにおいても状況変化に対する対応性が高まるので有効である。

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プログラムマネジメント

P2Mにおいて、プログラムマネジメントは以下のように定義されている。
「プログラムマネジメントは、事業戦略を実践するためのプログラムミッションの達成を目的とするマネジメントである。そのために、関連性を持つ複数のプロジェクト群を定義し、これらを実行し価値創造を達成するための一連のプロセスで構成される」

平たく言えばプログラムマネジメントとは、事業戦略の一部を担う実行単位となるプログラムの成果を最大限に引き出すために行われるマネジメントであり、その目的は戦略の確実な実行とともに戦略が期待するプログラム価値の最大化にある。
プログラムマネジメントが行われることにより、プログラム価値がプログラム傘下の個々のプロジェクトから得られるそれぞれの達成価値の総和よりもはるかに大きくなることが期待される。いわゆるシナジーがプログラムマネジメントによって創り出される価値となる。

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プログラムマネジメントの実践には少なくとも次の3つの点で大きなメリットがある。

◆ 事業戦略目標の効率的な達成
事業においてはさまざまなプロジェクトが存在しているが、それらを事業戦略に照らし合わせると、いくつかのプロジェクトはその存在理由さえ疑わしいものがある。その疑わしいプロジェクトの存在理由も、ある特定の個人や組織の思惑を達成するといった事業戦略に関係のないものも多い。 また、事業戦略の方向性とある程度整合性は取れているプロジェクトにおいても、整理していくと似たようなプロジェクトが存在していたり、それぞれのプロジェクト目的が矛盾していたり、無駄や不整合が存在する。プロジェクトを個別に扱い実施していたのでは、プロジェクトの存在理由をチェックしたり、プロジェクトの実施方針を定めたりすることは難しい。プロジェクトをプログラムのなかで定義することによって、プロジェクトの存在意義も明らかになり、プログラムの目標を達成するうえでの位置づけや優先順位も明確となり、少なくとも不要なプロジェクトは確実に減らすことができる。

◆ プロジェクト効率化の促進
プロジェクトをプログラムのなかで定義し実行することによって、同一のプロセスや、システムを利用することができる。プロジェクトごとに別々の仕組みを構築する必要はなく、共通の仕組みを作ることでマネジメントの効率化をはかることができる。さらに、プログラム全体でリソースを共有することで無駄なリソ-スを排除し、リソース全体の有効利用率を向上させることが可能である。ただし、このためにはプロジェクト間の情報共有と、プロジェクト優先順位の設定手順やプロジェクト間のリソース調整ルールなど、プログラムマネジメント特有のマネジメントプロセスの定義とシステムの整備が必要となる。

◆ プロジェクトリスクの低減
同一組織において実施されるプロジェクトは、相互になんらかの関係を持っていることが多い。作業が相互に関与するような直接的な強い関係を持つものあれば、リソ-スの取合いなどの間接的な関係を持つものまでいろいろとある。プロジェクトが個別にマネジメントされると、相互の関連性が損なわれる危険性が高くなリ、その関連性の欠如からさまざまなリスクが発生することになる。プロジェクトをプログラムのなかで定義することは、その関連性も含めマネジメントすることに等しい。結果として、それぞれのプロジェクトのリスクを軽減することなる。

事例:入り口の問題

あるソフトウエアプロジェクトを行っている企業で、開発費用を1年以内に10%削減し、利益をその分向上させるようにトップから指示がでた。しかし、ソフトウエアプロジェクトにおいて、いきなり開発費用を平均で10%も削減することは難しい。開発部門責任者は悩み、これまでのソフトウエアプロジェクトをすべて見なおした。すると、受注段階から問題があるプロジェクトがいくつか存在し、それらが利益率を大きく落としていることに気がついた。さっそく、営業部門にトップの方針を達成するよう協力を求め、問題となりそうな受注案件を排除するプロセスを徹底した。
その結果、不良プロジェクトは受注段階で振るい落とされ、問題となるプロジェクトの数が大幅に減り、1年以内に開発費用は10%以上削減されたのである。
この例も1つのプログラムマネジメントの実践である。企業の戦略である10%開発費削減を達成するために、プロジェクトの選択を実施している。まさに、戦略からプロジェクトへの連携である。 そして多くの無駄は上流側にあり、上流側を含めた革新こそが大きな利益を生み出すことができる。