Column
第25回リーダーシップ(前編)
プロジェクトの成功にリーダーシップは欠かせない。しかし、どれほどの人がリーダーシップを発揮して仕事をしているであろうか。リーダーシップの研究はこれまでも多くの人が取り組んできたが、いまだ結論には至っていない。それほど、深いテーマであり、重要なテーマでもある。わかっていることは、リーダーシップは言われてやるものでもなく、言われたからといってすぐにできるものでもない。自らの信念のもとに、自分の意思として発揮すべきものであることは疑いない。ときおり、リーダーシップのスタイルに焦点をあてリーダーシップを議論することも多いが、スタイルは個性であり本質ではない。ここでは、リーダーシップの本質について述べていくことにする。
リーダーシップとは
リーダーシップとは何か? とても素朴な質問であるが、これをどのようにとらえるかによってその後の自分の行動が変わってくるので、とても重要な質問でもある。私はリーダーシップを「自分の権限の及ばない人達を動かす力」として解釈している。それも、金銭や経済的な便宜を相手にはかること無しに、である。リーダーシップが発揮されることにより、相手はそのリーダーシップの影響を受けて自ら目的をもって活動を始める。リーダーシップがなければ誰も動かず、何も達成できない。リーダーシップとはそのようなものである。
次に、リーダーシップを発揮するために、そのリーダーシップを構成する重要な要素について考えてみよう。リーダーシップを発揮するにはどのようなことが重要かと聞くと、「ビジョンを示す」「動議つける」という言葉がよく帰ってくる。確かに人を動かすには、ビジョンを示し、やる気を起こさせることは重要であることは間違いない。だが、もう少し足らない気がする。成果を出すまでには、何事にも時間と困難が伴うものである。その困難を超えて成果を出すには、動いてもらう人たちが動きやすくなくてはならない。動くことにおいて、そのハードルが高ければ高いほど人は動かない。多くの人を動かして成果をだすには、動きやすい環境を作り上げることも重要であり「人々の活動をやりやすくする」こともリーダーシップの要素として忘れてはならない。
リーダーの資質
MOTなどで講義を行うと、時折このような質問を受ける「リーダーは誰でもなれるのか?」答えとしてはYESであるが、ただ認識しておかなくてはならないことがある。リーダーとしての資質である。その資質の部分は個人の性格や生き方などに関係することであり、リーダーとして資質が高いほどリーダーとしての行動をとりやすく、リーダーとして認められやすいが、逆にリーダーとして資質が低ければ自分はリーダーだと思っても周りはリーダーとして認めてくれないギャップを生む。リーダーとは、周りが認めて初めて成り立つものであり、行動の結果だということを理解した上でリーダーの資質について触れていきたい。
ここに、面白いデータがある。少し古いデータであるが、人の基本行動は時代によってそれほど左右されることはないことを考えると、充分参考となるデータである。
この図はリーダーの資質について調べた資料である。リーダーとして活動していくには、どのような資質が重要なのかを表しており非常に参考となる。この図からまずわかることは、リーダーとして技術力はそれほど重要ではないことである。しかし、多くの組織における実態を見てみるとこれと逆のことが行われていないだろうか?
プロジェクトのリーダーを決める場合、技術スキルの高い人材がリーダーを任されるとか、組織においても技術力の高い人材が尊重されマネジャーを任されるというケースは、普通で行われているのが実態ではなかろうか。しかし、この図はそれを否定しており、技術力でリーダーを決めることの危うさを指摘している。リーダーとしての資質は、技術力ではなくリーダーシップ、コミュニケーション力、チームビルディング能力などいわゆる、自分以外の人達の能力を発揮させるために必要な能力の方が技術力よりはるかに重要であることを示しているのである。
いわゆる、プレーヤーと監督の違い考えればわかりやすい。優秀なプレーヤーだからといって優秀な監督になるとは限らない。これは、プロ野球を見ていればよくわかる。たしかに、優秀なプレーヤーで優秀な監督となった人もいるが、優秀なプレーヤーであったが監督としては成果を出せなかった人や、逆のプレーヤーとしてはそれほどの花形ではなかったが、監督として素晴らしい能力を発揮した人もいる。プレーヤ―として必要な資質と監督として必要な資質が異なるからこそこのようなことが起こるのである。リーダーとしての重要な資質はこの図から技術以外の能力であり、この能力が高ければ高いほど自分以外の人達を上手く動かすことが可能となる。その能力は、持って生まれた才能があればそのまま発揮することでリーダーとして見つめられるが、そのような人材は残念ながらわずかであり、多くの人々はこれらの資質に濃淡をもって生まれつき、それぞれに差がある。重要なことは、これらのスキルの重要性を理解し上手く発揮できるように努力していけば誰もがリーダーとしての道を歩むことがえきるということである。逆に言えば、ここで必要とするスキルを意識できず、発揮できずにいる限り周りからリーダーとして認められる可能性は低くいつまでたってみリーダーにはなり切れないということも言えよう。リーダーの資質を理解し、それぞれの資質を上手く発揮するように意識的に行動することがリーダーへの道に通ずると考えてもらいたい。
リーダーシップとマネジメント
多くの人達はリーダーシップとマネジメントを漠然として理解しているが、その違いを明確に理解している人は思いのほか少ない。リーダーシップが「自分の権限の及ばない人達を動かす力」と説明したが、人を動かすという意味ではマネジメントも同じ効力を発揮する。しかし、マネジメントとリーダーシップの働き方には大きな違いがあり、そのところを正しく理解しないと人を動かすにおいて間違った動かし方をして、結果を出せなくなる。マネジメントはフォーマルの世界で作用する力であり、フォーマルな権威や権限を使って人を動かすという性格を持つ。逆にリーダーシップはインフォ―マルなところで作用できる力であり、権威や権限とは無縁なものである。この二つの力は相反するものというよりも、人の活動においては補完すべきものとして解釈することが望ましく、作用の異なる二つの力をどのように使いわけて成果を出すのかということをリーダーが常に考えるべきテーマである。正しく使えば、成果をだせるが間違った使い方をすると成果を損なうことになる。マネジメントとリーダーシップの必要性は軍隊をイメージするとよくわかる。統率の取れた強い軍隊をつくるには平時においてマネジメントが必要となる。フォーマルの権限の中で、半ば強制的に兵隊を動かし鍛錬させなければ強い軍隊を作り上げることはできない。マネジメントという統制力と強制力を持った作用がなければ強い軍隊には到底なりえないのである。しかし、翻って戦時にはどうだろうか。戦時においては軍隊そのものの戦略的な活動はマネジメントによっておこなうことができるが、刻々と戦況が変化する戦場においてはマネジメントだけで対応できるものではない。変化する戦況に応じて部隊は臨機応変に対応することが不可欠となる。敵の動きや味方の状況などを理解し、例え一兵卒であろうとも勝つためには上官を動かす必要があり、フォーマル以上に真実を理解して周りを動かせるリーダーシップこそが敵に勝ち味方の命を救う手立てとなる。戦場ではマネジメント以上にリーダーシップの重要性が増してくるものであり、軍隊における個々人のリーダーシップが強く求められてくる。この二つの異なる作用する力を正しく理解し、必要に応じて必要な力を使うスキルがリーダーには求められる。
リーダーとマネジャー
リーダーとマネジャーの違いはどうであろうか。会社の名刺には通常は課長、部長などの役職が書かれており、英語の名刺ではとしてマネジャー(Manager)とかディレクター(Director)とかが使われる。これらの役職は、その人の持つ権限を表しておりその役職に期待された成果を達成できるように、組織からフォーマルな権限が与えられている。マネジャーとはフォーマルの権限を与えられた人たちを指し、その権限を駆使して成果を出すことを期待された人たちの事である。一方、リーダーとは何だろうか。時折、リーダーという役職のついた名刺をもらうこともあるが、マネジャーに比べると圧倒的に少ない。本来、リーダーとはインフォーマルな力を駆使して人を動かし成果を出す人たちを意味しており、フォーマリティの世界とは無縁の人達である。インフォーマルな力を用いて人を動かせる人たちがリーダーであり、そこには男女や年齢なども関係ない。つまり、自ら問題意識を持ち、その問題を自ら率先して解決しようと動いた人は全てリーダーであり、言い方を変えると誰もがリーダーになることができるのである。リーダーとは与えられてなれるものではなく、自らなるものである。つまり、新入社員であろうが社長であろうが自ら問題を解決していこうと動いた人は等しくリーダーとなる。