Column
第24回プロジェクトチーム(後編)
前回に引き続いて、プロジェクトチームについてお話をする。
チームのライフサイクル
プロジェクトにライフサイクルがあるように、チームにもライフサイクルが存在する。チームのライフサイクルとは、チームメンバーのその時々の関心事や関係と、その時々の状態を意味しており、プロジェクトにおいてチームを立ち上げた後、それがどのような動きをするのかを知ることはとても大切なことである。ライフサイクルを通じてチームの関心事や関係がどう変わるのかを知ることによって、それに対応した手立てを前もって準備することができ、チームの混乱を抑え早く成果の出せるチームに成長させることも可能になってくる。
下図に、チームを結成してからチームが解散されるまでのチームのライフサイクルの様子を5つのステージで示す。
このライフサイクルのステージからわかるように、新しいチームを結成した場合、まずは自分のチーム内での立ち位置を見極める段階があり、その後で自分の役割と他メンバーの役割の関係性を見極めていく流れとなる。 その中でお互いのバックグラウンドや経験のギャップからくる意見や考えの相違などから様々な衝突がおこり、それを乗り越えて初めてチームとしてお互いが協力できる段階へと移る。 このプロセスは、新しくチームを作る場合には必ず発生するものであり避けることはできない。特に、お互いを知らない場合、組織環境や国が違う場合、常識やカルチャーが違ったりする場合はそのギャップはさらに大きくなり、混乱も大きい。
混乱期をなくすことはできないが、小さくすること又は短くすることは可能である。一つは、図表に示されている仕事や関係性に関するチームメンバーの関心事に対して応えるあげることである。チームの目標、それぞれの役割、関係などを明確定義し、できればチームで議論して合意まで持っていければ、その後の混乱は大きく減る。つまり、プロジェクトにおけるチームビルディングの活動を積極的にやることが第一である。そのために、少し時間とお金もかける必要が出てくるが、そのあとの成果を考えれば安いものである。フロントローディングでチームを作り上げることが重要である。
さらに、組織的な取り組みでこの混乱のステージを小さくすることもできる。この混乱の原因は大きく二つ存在し、一つはプロジェクト自体にかかわること、もう一つはチームメンバーの状態にかかわることである。前者はプロジェクトごとに解決するしかないが、後者は組織として事前に対応することは可能である。例えば、お互いを知らないという状況を減らす取り組み、例えば社内での部門間、地域間の交流を活発にやっておけば、お互いのやり方や考え方の違いを事前に知ることができ、さらにはプロジェクトメンバーとなる以前より相手を知ることもできる。そのような、組織的な積極な交流はプロジェクトチームを作るときに大きく役立つことになる。
プロジェクトチームのメンバー構成
プロジェクトチームの編成を行うにあたって注意すべきことがある。それは、チームの大きさである。プロジェクトの規模が大きくなれば当然プロジェクト参加者の数も増え、プロジェクトチームも大きくなりがちとなる。しかし、人数の多いチームは機能しない。このことは、人間行動科学の分野では既に常識となっている。チームの人数が多くなればなるほど人は自分の持つ能力を最大限に発揮しようとするモチベーションがなくなり、いわゆるぶら下がり現象が発生する。
チームのメンバーの能力を最大限に発揮させるには、適正な人数でチーム編成を行い、それぞれに明確な役割を持たせてモチベーションを高めなくてはならない。もし、どうしても人数が多くなる場合は、チームを階層化するとよい。下図にチームを階層化したときのイメージを示す。
プロジェクトメンバーの役割
プロジェクトチームにおいて、組織の上下関係をチームに持ち込むケースは非常に多い。特に日本の企業においては組織の上下関係がチーム編成までも左右し、そのプロジェクトとして適任ではないが、組織内での地位が高いのでプロジェクトマネジャーを任されているケースもよく見かける。しかし本来のプロジェクトの目的達成から考えると組織の上下関係に価値はない。大事なことは年齢・地位に関係なくプロジェクトの目的や特性を見極めて、適材適所でプロジェクトマネジャーを含めたメンバーを選出しアサインすることである。
ただそのことを、どれだけ徹底して行えるかどうかが重要であり、そのためにはプロジェクトに参加するメンバーが、その大原則を理解し行動できる必要がある。この本質は、極限状態を想定するとよくわかる。あなたが、もし帆船で大航海に出て荒海を乗り越えるミッションを持ったとしよう。あなたは誰に船のかじ取りを任せるだろうか? 間違いなく、操船のスキルの高い、経験のある人間にかじ取りを任せるに違ない。そこには、地位も年齢も関係ないはずである。なぜなら、あなたの命がかかっているからだ。極限状態を考えればものの本質はよく見えてくるものである。しかし、多くの場合その本質に従ってマネジメントが行われることの方が少なく、様々な非本質的なことによってマネジメントが行われるケースは後を絶たない。なぜなら、自分の命を失うことはないからである。
プロジェクトメンバーの役割は、この航海における船員の役割に近い。それぞれが自分の専門を持っており、お互いの信頼のもと荒波を乗り切るために、自分の役割を果たすだけでなく、クルーメンバーの状況や天候の変化や船の状態などにも気にかけ、必要であれば船長に対しても提言し、メンバー同士で助けあう。このように、生存環境が厳しい世界での当たり前の行動こそがプロジェクトメンバーに求められる行動であり、役割である。
チームビルディング
欧米ではチームビルディングと称していろいろな活動がプロジェクトにおいても行われる。しかし、チームビルディングなるもの、本来は日本人の方が得意なはずである。日本人は子供のころから団体教育を受け、集団での活動に慣れてきた。仕事場でも、大部屋と言われるオープンスペースで仕事を行い、上司と部下が一つの部屋で自由に議論できる環境も整っている。また、アフターファイブと称して飲みながらいろいろと議論する風土など他の国では珍しい日本文化の中で、日本人は普通のこととして自然にチームビルディングを行ってきた。
逆に個人を尊重し、個人で動くことを旨とする欧米社会の方がチームとしての強みを発揮する能力が低く、チームビルディングを必要としている。日本ではある程度普通にやっていることが、欧米では普通ではないために意識的にやらなければ成果が出せないため、それがチームビルディングということで体系化され、理論づけられわかりやすく実践できるようになっただけである。
しかし、日本も生活様式の欧米化が進み、個を尊重する風潮も強くなり、アフターファイブよりも自分のプライベート重要視する生活スタイルも増え、世代とともにチームの結束力は弱くなってきた。また、グローバル化する世界においては、異なるカルチャーや価値観を持つ人たちと強いチームを作らなければならないケースも増えてきた。
そのような環境変化の中において、欧米が必要とし実践の中で体系化されたチームビルディングの考え方を新しい目で見つめなおし、強いチームを作りプロジェクト成果を出すための効果的な手法として積極的に活用することは、これからのチームにはますます必要となってくることであろう。